認知症症状の観察から突き止める≪記憶≫とは何か?

 さて、また一歩、認知症について切り込んでいきましょう。

 親御様が認知症に罹患すると、さまざまな認知症症状に直面するはずです。さまざまな認知症症状に困惑すると思いますが、記憶、特に短期記憶がおぼつなくなる症状に翻弄されると思います。

 日付が判らなくなる。金銭の支払いに苦労する。料理の段取りが出来なくなる。そのような理解しがたい状況に直面して、まず真っ先に思うのが、その症状から脱却できないかと試行錯誤するはずですが、ムリだと判るのにそう時間を要しません。

 それよりも、認知症症状を洞察することで、その病との向き合い方が見えてきます。

もくじ

≪ 記憶 ≫とは何か?

 もの忘れをしないように、私はメモ紙を手放せません。

 書いておかないと、大事な用件、約束、締め切り等々を忘れてしまいます。

 スケジュールが立て込めば、その日のタイムスケジュールまで書き出しておかなければ、効率よく行動できません。

 おそらく現代人は、かつてないほどの慌ただしさに身を置いているはずです。

 理由は、ITの発展です。

 仕事や業務の効率の良さを目指すばかりで、自分の行動はその対応に引っ張られて効率は低下していきます。

 20世紀は、せいぜい電話とファックス。

 21世紀になると、そこにメールとウエブが加わります。

 さらに現在では、SNS、AI、グループウエアが加わります。

 古くなったコミュニケーション・ツールは淘汰されますが、継続して残るものも多く、さらにはコミュニケーション・ボリュームが増えるため、個人として処理する情報、対応する状況が膨大になります。

 なので、忙しさというよりも、慌ただしさが爆増しているのが、今ではないでしょうか?

 地球の裏側の状況が、リアルタイムに把握できるというのはこういうことです。

 そんな状況で、昨日食べたランチのメニュー、思い出せますか?

 仮に思い出せたとして、おとといは?、一週間前は?

 覚えていない人が、ほとんどだと思います。

 ひょっとしたら、認知症症状と同様に、短期記憶がやられてしまっているかもしれませんね・笑。

思い出す

 企業に勤めていると、毎日がとてもハッピーに業務に邁進できているという気持ちの人は、おそらく少数派ではないでしょうか?

 多くの人は、『○○しなければならない』、といったマストで動いているはずです。

 とても面白い、楽しい、といった感情では仕事していないですよね。

 でも、そのような状況が多く費やされる仕事社会で、非常に達成感のあった、喜びが伴った仕事をした時期というのもゼロではないはずです。

 思い出したはずです。

 あなたの昔の≪ 記憶 ≫。

 他にも、質問のアプローチを変えてみましょう。

 幼少期まで遡るかどうかは、人それぞれですが、家族で過ごした楽しかった日や、時間があるはずです。

 思い出せますね!

 それも、あなたの昔の≪ 記憶 ≫。

 そんな昔の記憶は思い出せるのに、おとといのランチのメニューは思い出せない。

 何かおかしい、と思いませんか?

記憶とは心がセット

 では、昔の記憶は思い出せるのに、おとといのランチ・メニューは思い出せない謎に迫ります。

 実は、≪ 記憶 ≫とは、感情が伴っている時に蘇ります。

 感情とは、心です。

 心が、嬉しいと感じます。

 頭で、嬉しいとは感じませんね。

 嬉しいと感じた心が、記憶のインデックスになっているのをほとんどの人は知らないですね。

 医学界に限らず、世間一般でも、脳が記憶していると考えるのが主流のように見受けます。

 もちろん、感情無しの≪ 記憶 ≫もあります。

 たとえば、三角関数からピタゴラスの定理を説明しろと言われても、ほとんど人が出来ないばかりか、三角関数ってなんだっけ?状態だと思います。

 誰もが、高校で数学を習っていれば、必ず試験対策した内容です。

 ですが、忘れているというか、記憶したかどうかさえ覚えていないほどだ、という人もいらっしゃるはず。

 これは、いわゆる脳だけで記憶して、心が伴いません。テストといったできれば避けたいような状況に迫られて、マストで記憶した内容だからです。

 つまり、心が伴わないどうでも良いことは、頭で記憶しても一時的。

 すぐに消え去ります。

 これ、認知症の短期記憶の症状と似ていますよね!?

 そうなんです。

 認知症の長谷川式認知症スケールで、何ら生活に脈絡のない絵を見せられて、記憶して、後で答えるというテストがありますね。

 あれ、認知症じゃない私がテストされても、実は苦痛なんです。

 楽しくないでしょ?

 覚えるのがイヤ!っていう感情が先立つので、私もとても苦手なんです。

 覚えはしますが、翌日には忘れています。

 それだけ、心が伴わない。

 逆に言えば、心が伴えば、必要な記憶はついてきます。

 認知症を患う母を新居でスタートさせることができた大きなポイントは、ここにあります。

 例えば、私の母が新居に引っ越してきて、トイレの場所をどうやって覚えたと思いますか?

 少々、長くなるので続きは次の記事に譲ります。

 認知症症状を観察していると、心や記憶への洞察が深まります。

 短期の記憶はできないのに、昔の出来事はしっかりと覚えているという症状を観察すると思います。非常に不思議な現象で、記憶は脳がするという観点だけでは説明ができません。

 もちろん、脳のある部分はダメージが生じていて、ある部分はダメージが無いからそのようなことになるという話も判ります。

 人によっては認知症が進行すれば、昔の記憶の世界だけに生きている症状にも直面します。それでも、今に引き戻してあげると我に返る場合も多いです。その時に感情のギャップも観察できます。

 つまり、記憶には心の関与が切っても切れないものだと見えてくるのです。

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